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apparatus (Agnieszka Mazur) - 'Diaries' (sample)

by Jade Visions

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narratologia 02:54
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marszczyć 02:36
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about

ポーランドの奇才、アニエシュカ・マズルがapparatus名義でリリースした『Diaries』が19年の時を経て限定ヴァイナル・リイシュー。
今回初となる国内盤のリリースを記念して、本アルバムの古くからのファンであるという作家の沢上柚美氏が、その一風変わった出会いを含む、ひとかたならぬ思いを当レーベルに寄せてくれた。

・・・・・・

「レコードって燃えるごみなんだ、へぇ」

私の「へぇ」には10以上の型があって、型その6くらいの「へぇ」だった。

いつもなら、それだけのはずが。

小学校のころから、歌はうまく歌えなかったし、楽器というものにも甚だ縁遠い私が、なぜあの木曜日の燃えるゴミの日に棄てられていたレコードを家に持って帰ってしまったのか、今となっては不明なのだけど──さしむき、そっと抱えて連れ帰るのに手頃だったから、かもしれない。
そのまま放っておくには好奇心のやり場に困り、あきらめてしまうには重さが足りなかった。

なんというか、過不足がなかったのだ。

なんというか、ありふれたように見えながら、その世界なりに必要な理屈を備えて美しく均整を保っている近所の川土手をゆらゆらと歩き持ち帰る心持ちもそうだったし、父のオーディオルームに忍び込んで、密度の高い筋肉質の体を椅子の背にあずける時の様なその音の群れを眺め続けたときの心持ちも、なんというか、過不足がなかった。

私だけが穴に沈み、音の出るスピーカーの底にあたまのてっぺんがあるようになる。私とスピーカーの吐く濃い息は部屋を満たし、そのまま鍵穴から外へと、濃密なまま細い流れをつくって出て行ったに違いない。

以来17年。8回、住む場所は変わった。ちょっとした御破算気分を味わいたいという気持ちが溜まると引っ越しをするよるべない私だけれど、行く先々で"『Diaries』はいつも書棚の一角のすぐ目につく場所に並べること"という、私というちいさな体系をつくる公理に従う正確性だけは鋳型のようにゆるぎない。
だからといって、何度も聴き返すわけでもないのだけれど──はじめて触れた時のあの瞬間──雲母を通したような斜光が淡い巣をかける父の部屋で、あらゆる差異という差異が溶解し、すべての存在の折れ目が折れ目通りにきちんと折り畳まれ、やにわに自分のまわりだけがまるまる世界の後景となったようなあの瞬間をそのまま立て掛けておきたい、というような気持ちからだ。

【寄稿】沢上柚美
小説家、エッセイスト。『くずヲれ』で2003年第67回野呂文芸新人賞を受賞。最新作はエッセイ『考え続ける、という答え』(冬夏社)

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released March 12, 2017

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Jade Visions

Jade Visionsは、世界のどこかにありそうな曲を創作した上で、架空のアーティスト、アルバムジャケット等を捏造し、どこかの誰かが言いそうなあるある音楽評論とアーティストコメントをライナーノーツとしてでっち上げるジョークレーベルです。

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